「笑顔で楽チン子育て」を支援する発達教室 ③

4.定頸までに向き癖は強くなる

このように姿勢や脊柱の発達からみると、向き癖は定頸までに強くなると言える。生後すぐから仰向けに平らな布団に寝かされることで、生理的屈曲を呈する脊柱は重力によって引き伸ばされてしまう。また頸部の筋は大きな頭部を支えられず左右どちらかに傾いてしまう。生後2ヶ月の弛緩期には全身的な低緊張による姿勢の不安定さを、床に接した頭部・肩・足部など身体の一部で強く押し付けることによって補い、姿勢を保とうとする。それが反り返りと表現される。新生児期にできた向き癖をATNRで強化し、一方向へのみ、いっそう反り返ってしまう。

5.感覚、特に触覚の話

丸く育てるためには赤ちゃんをおひな巻きで包んだり、クッションなどでポジショニングしたりすることが必要になる。この「包む」という行為によって赤ちゃんは姿勢がまとまり安定する。母親も抱っこや授乳がしやすくなる。つまり赤ちゃんは扱いやすく抱きやすくなり、母親とより密着しやすくなる。これは母子ともに安心・安全につながる。

また「包まれる」ことで皮膚から脳への感覚入力が増大する。「服を着てれば、皮膚からの感覚入力あるやないか?」と言う人もあるが、密着するように包まれると触圧覚も入力され、末消の受容体が増え、服を着ているだけの触覚刺激よりも脳への入力が増える。また、新生児の場合、ブカブカの服を着ていることが多く、服が浮いたり、触ったり、衣擦れのような分断された触覚入力がなされると、その分断された入力に合わせてちぐはぐな運動が出やすく、姿勢の不安定さにつながる。おくるみをすると赤ちゃんが落ち着くのは、このような理由により説明できる。

感覚入力の増大は①外界を知る手がかりとなるため、将来的な探索行動へつながる。また、②自己身体と外界との境界を知る手がかりとなり、身体図式を形成する基礎となる。この身体図式が形成されていることは、将来的に他人との距離感をつかむことにつながる。触覚もコミュニケーションの重要な基礎となるのである。

6.運動の話

感じるから動く、動くから感じる というのは脳への刺激入出力の基本となる。丸く包まれている中での運動は胎児と同じで、伸筋群の筋緊張を発達させる。早産児が低緊張なのは子宮壁を押したり蹴ったりする経験を十分せずに生まれてくるからである。正期産児でも発達の初期は生理的屈曲の後、生理的弛緩期がやって来る。この時、しっかり包んでおくと、筋は驚くほどしなやかに、それでいて力強く発達する。全体を丸く包んでおくことで一部分だけ筋緊張を強め、反り返ってくることはほとんどない。

丸く寝かせたり、スリングに入れていたりすると「そんな狭い所に入れたら大きくならん!」とよく言われるが、筋の発達から言うと包まれるように狭い所に入って動いていれば、伸筋の発達が進むので、むしろ成長発達を促進させると考えられる。

そして、包まれている中で動くことで、抵抗があるため深部感覚(固有覚・運動覚)はより明確となり、表在感覚(触覚・圧覚など)からの入力も増大するため、早期から運動方向の学習が進みやすく、運動の学習が強化されやすいと考える。

7.生理学的な話、生活リズムの発達

丸い姿勢は屈筋、特に腹筋が収縮しやすいため、呼吸が安定しやすくなる。呼吸が安定していれば、①胸郭の形状を発達させることができる。つまり、より深くゆっくりとした呼吸ができるようになり、②副交感神経系が優位となり、リラックスしやすくなる。そうすると良く寝て、穏やかに覚醒し、良い覚醒状態を保つことができる。③このような安定した、良い覚醒状態での刺激が脳の発達を促進する。

赤ちゃんは不快があると泣く。しかし、急な強い刺激でなければ突然泣くことはない。お腹がすいた、寒い、暑い、オムツを替えて欲しいなどの不快を訴えて泣く前には、ムズムズ動いたり、身体をよじったり、手足をバタつかせるなどの前兆が必ずある。良い覚醒状態で機嫌よく身体を動かし、楽しんでいる時の運動とは、明らかに違った運動で不快を表現することが多い。発声も、機嫌が良いときのクーイングと、不機嫌なときの唸りやぐずりは明らかに違う。このような違いを見逃さず、泣く手前で不快を取り除いてやれば「泣かさない子育て」ができるようになる。

呼吸が安定していて、不快な状態も作らない(つまり、泣かせない)ようにしておけば、大人の生活リズムに合わせた睡眠覚醒のリズムが作りやすく、2ヶ月を過ぎた頃には日中の覚醒時間が増え、夜間はまとめて寝るというリズムができ上がってくるため、母親もずいぶん楽になる。

8.認知発達―賢い子に育てるには泣かせないこと―

以上説明したように、感覚運動の統合と生理学的な発達は脳の発達に裏付けられている。泣かさないで丸く育てることは、生理学的に安定した脳の状態で、周囲の刺激を入力し、それに応じた運動を出力するというループを脳内に作る。早期から環境適応に向けての内的フィードバック機構を確立することになる。内的フィードバック機構とは「動くから感じる、感じるから動く」というループを作ることであり、自己身体内の感覚と運動を統合していくことである。

また、泣かさない子育てをすることは、基本的信頼関係の形成と、外的フィードバック機構の確立に役立つ。外的フィードバック機構とは、環境からの刺激を入力し、それに適した運動を調整しながら出力することである。内的フィードバック機構と外界からの感覚入力によって、環境に働きかける際の運動が調整される。これら二つのフィードバック機構の確立によって、私達はこの複雑な環境の中で、安全に、健康に、楽しく、快適に過ごせるのである。