骨盤ケアで改善! PART10妊娠に伴う腰背部痛・骨盤痛のメカニズム ①

1.はじめに

妊娠中はつわり、便秘、頻尿や尿漏れ、腓(こむら)がえり、浮腫、動悸や息切れ、貧血、そして腰背部痛や骨盤痛など様々なマイナートラブルが発生する。中でも腰背部痛・骨盤痛は全体の約7 割の妊婦が経験し、さらに日常生活動作やQOL にも影響を及ぼす症状であり、単なる一症状として見過ごすことはできない。

今回は「姿勢」に焦点を当てながら妊娠中の腰背部痛・骨盤痛についての知見を紹介する。

 

2.良い姿勢とは

理想の立位姿勢は、後方から見た場合(前額面)は後頭結節から各椎体の棘突起、臀裂、両膝関節間中心、両内果間中心が同一直線上を通り、両側の肩峰や腸骨稜を結んだ直線が水平となる。また、横から見た場合(矢状面)は耳垂、肩峰、大転子、膝蓋骨後面、外果の前部(約2㎝)が同一直線上を通る(図1)。

図1 理想の姿勢(矢状面)
図1 理想の姿勢(矢状面)

 

ヒトの脊柱は7 個の頸椎、12 個の胸椎、5 個の腰椎、そして仙骨、尾骨から成っている。頸部と下部体幹は生理的に前弯しており、上部体幹は後弯を示すのが正常であるとされてきた。つまり、脊柱は2 つのS 字状カーブを有している。この弯曲はヒトが立位や二足歩行をする上で重心を適当な位置に収めたり、衝撃を和らげたりするのに役立っている。また、仙骨は軽度前傾を示している。
脊柱弯曲の角度は人によって差が大きいが、平均的な値は頸部の前弯(頸椎前弯角)が30 ~ 35°、上部体幹の後弯(胸椎後弯角)が40°、下部体幹の前弯(腰椎前弯角が45°、仙骨傾斜角が30°と言われている(図2)。

図2 脊柱の生理的湾曲
図2 脊柱の生理的湾曲

 

正しい脊柱のアライメントを維持するには骨盤底筋群、腹横筋、腰部多裂筋などの深層筋群の働きが必要である。

 

3.骨盤の構造と妊娠に伴う変化

骨盤は左右1 対の寛骨および仙骨、尾骨から成っている複合体であり、身体のほぼ中心にある。
つまり、腰椎から上の体の重みを支え、下肢を介して伝わってくる床反力や衝撃を受け止める部位が骨盤であり、骨盤が安定しているということは正しい姿勢を維持したり、運動を行う上で重要である。
しかし、受精卵が細胞分裂を始めると、着床する前からすでにリラキシンホルモンが分泌されるため、全身の筋肉や靭帯は弛緩する。したがって、非妊時に比べ靭帯による支持は弱くなり、関節や組織への負担は大きくなる。また、筋肉も弛緩するので筋力は発揮しづらく、特に腹筋群は子宮により引き伸ばされるため力が入りにくくなる。

胎児の成長に伴い腹部が大きくなるにしたがって、重心は前方へと移動する。一般的にこの増大した腹部の重みにより、立位では下部体幹の脊柱は過前弯し、バランスを取るため上部体幹の脊柱の後弯は増強すると言われている。しかし、全ての妊婦がこのような姿勢変化を辿るわけではない。人によっては体幹を骨盤ごと後傾させて頭部だけを前方に突き出してバランスを取ったり、膝や股関節を軽度屈曲させることにより骨盤を後方に移動させバランスを取ったり、様々な姿勢戦略により重心を安定させようとする。この時、立位姿勢を維持する抗重力筋群〔下腿三頭筋、大腿四頭筋(図3)、大臀筋、腹筋群、背筋群など〕や体幹を支持する深層筋群〔腰部多裂筋、骨盤底筋群(図4)、腹横筋など〕の筋力が弱いほど骨や靭帯などの受動的な支持組織によって姿勢を維持する割合が大きくなり、負担が増大するため、疼痛が生じやすくなる。また、筋肉の疲労も早いため、姿勢性の筋・筋膜性疼痛も起こりやすい。

図3 下肢の抗重力筋群
図3 下肢の抗重力筋群
図4 体幹を支持する深層筋群
図4 体幹を支持する深層筋群

 

また、多くの靭帯や骨盤周囲筋によって安定性を得ている骨盤輪も、リラキシンの影響により可動性が亢進する。非妊時より靭帯や骨盤底筋群が弱化していると、子宮などの骨盤内臓器の重量を支えることができず、妊娠初期や中期から必要以上に骨盤輪が緩んでしまう可能性がある。骨盤輪が緩んでくると骨盤周囲の靭帯や筋が引き伸ばされ、骨盤輪を安定させるために過緊張になり、疼痛が生じやすくなる。また、左右非対称な姿勢や片脚だけに体重をかけていると骨盤が左右非対称になり、これも痛みに繋がりやすい。

また、骨盤が緩むと子宮などの骨盤内臓器は下垂する。子宮が下垂すると頸管が骨盤底筋群と子宮体部の間で圧迫を受け、子宮収縮を招く。膀胱や直腸が下垂すると排尿障害や便秘・脱肛を悪化させたり、進行すると骨盤臓器脱を招く恐れもある。さらには、切迫流早産のリスクを高める可能性が考えられる。

骨盤は身体のほぼ中心に位置している事から、骨盤が緩むことにより安定性が低下すると日常生活動作などの不安定性にもつながりやすい。