骨盤ケアで改善! PART10妊婦の腰痛はマイナートラブルか? ①

Ⅰ.なぜ、精神科医が腰痛の話をするのか

精神科の医師がなぜ、腰痛の話をするのかと不思議に思われた方が少なからずおられると思います。そこで、なぜ、私が腰痛の研究を行うようになったか、そのきっかけをお話しましょう。

もう、10 年くらい前のことですが、腰痛を苦にして、自殺企図に至った患者さんの診察を救命救急センターから2 人立て続けに依頼されました。この時私は、腰痛だからこういうことが起こるのか、頭痛ではどうなのか、腰痛の背景に固有の精神医学的な問題が潜んでいるかもしれないと考えました。何か根拠があったわけではなく、直感的にそう思ったのです。私にとって腰痛は精神医学の問題として立ち現れたのです。

今日は腰痛とこころの関係 1,2) を少しでも理解して頂きたいと願っています。

 

II.腰痛と器質疾患

腰痛と聞いてすぐに思い浮かぶのは、椎間板ヘルニアなどの脊椎疾患と思います。 Waddell 3)
は、 整形外科受診の腰痛患者の器質病変と腰痛(the clinical presentation of pain)との相関係数
は0.27と報告しており、 予想に反してその相関は小さいと思われます。

以上のことから、 腰痛には器質疾患以外の要因が関与していることが推定されます。 要因の一つ
として心理学的、 精神医学的な問題が存在している可能性があると考えられます。

 

Ⅲ. 腰痛とうつ病

Polatin 4)は、機能回復訓練に通っている200 人の慢性腰痛患者のうち、64%がDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)分類の大うつ病性障害に該当と報告しています。よって、慢性腰痛の背景にはうつ病が存在する可能性があると考えられます。

壁島 5)は、うつ病の約65%に疼痛を認め、最も多いのは頭痛で、次いで、腰痛を含む躯幹の痛みと言っています。山家ら 6)は、うつ病の42%に疼痛の訴えがあり、その中で腰痛と頭痛は両者とも33%と述べています。

ここで、私が主治医として担当させて頂いたうつ病の患者さん7)をご紹介します。50 歳代の女性です。

X 年1 月、夫が肝臓癌で亡くなりました。3 月に入ると強い腰痛を訴えるようになり、トイレにも行けない状態になりました。その後、抑うつ気分や不眠などを訴えるようになりました。6月下旬には、強い自殺念慮を訴えたため、精神科に入院となりました。以後、順調な回復をみせ、腰痛の訴えもなく、10月上旬に退院となりました。

11月上旬、再び、腰痛を訴えるようになり、12月中旬、自殺念慮を訴えたため、再入院となりました。X+1 年1 月中旬、外泊をして、夫の1周忌を無事に済ませました。2月下旬には「夫の死も1周忌が過ぎて落ち着いた。受け入れられてきた」と述べました。4月上旬、腰痛の訴えもなく、改善がみられたため、退院となりました。6 月上旬、外来で患者は「発病前の状態にほぼ戻っている」と言いました。

夫を亡くした後に腰痛を訴えるようになりましたが、喪の作業が進むにつれて、腰痛の訴えはなくなっていきました。痛みには意味がある8)と言えると思います。