座長ご挨拶

模倣力を伸ばそう

私の父は人のしぐさや話し方を真似るのが上手く、調理・歌・太鼓・絵なども上手だった。幼い私は「どうしてあんなにそっくりに真似られるのだろう?どうしてあんなに器用なんだろう?」と、いつも不思議に思っていた。やがて私は、もの真似をしている父の真似をするようになり、そうするうちに徐々に父と同じようにもの真似上手になった。大学病院勤務をやめ、セミナーで全国を行脚するようになった十数年前からは、仕事でも宴会でも、もの真似で笑いをとるキャラとなってしまった。笑わそうと思ってやっているのではないのだが、「そっくり!」と、会場は爆笑に包まれる。

「学ぶ」の語源は「真似る」だそうだが、真似をするには見聞きする力はもちろん、真似できる身体能力が必要である。真似る力(模倣力)がないことには、どんな踊りや武術や、仕事上の技もなかなか習得できない。「技は盗んで身につける」のが当たり前だった時代、模倣力の高い人達がいっぱいいて、模倣力の高い人だけが職人になれたのだと思う。

私も父が調理などをしているのを傍らで見て覚え、学生時代は簡単な説明を見聞きするだけで、仕事に必要な技を身につけていた。懇切丁寧に教えてもらった記憶はない。バトントワーリング・踊り・整体・操体法なども、全て簡単な説明だけ受けて、あとは真似ながら覚えた。

ところが今、私が診察法・整体・バトンの回し方などを詳しく説明し、何度もやって見せ、動画撮影までさせ、手取り足取りして教えても、なかなか技を覚えられない受講生が多い。彼女達は手先が不器用というだけでなく、全身の使い方がおかしい。「私とどこが違うのだろうか?どうしたらできるようになるのだろうか?」と、長年考えているうちに、数年前から子どもの発達について学ぶ機会が増え、徐々にその理由が分かって来た。

仕事の中で、幼児から大人の引き起こし反応・視性立ち直り反応を調べてみると、定頸(首据わり)しているとは言えない人の多さに驚いた。そのような人は、受け身を上手くとれず、2人で手をつないで前後・左右に揺れるような遊びをすると、「怖い!」と叫び、倒れそうになる。団塊の世代の人達が青年だったころ、学園祭やキャンプなどで、大勢でスクラムを組んで横に揺れながら歌うのが大好きだった。しかし、首据わりも受け身も不十分な現代青年の多くは、そんなことはできない。倒れないように必死に頑張らざるを得ないので、周囲を見渡す余裕も歌う余裕もないからである。何かをするために姿勢を維持するだけで精一杯なら、詳細に観察することもできないし、動作や技を真似することもできない。当然、「技を盗む」なんてことはできない。

全身の屈曲伸展を安定してできるのが良い 両眼を水平に保てるのが良い
輪にしたタオルなどを持ってするとやりやすい。慣れたら歌いながらやってみよう。どちらもできる人は、周囲を見渡したり、動きながら歌うことがたやすくできる。

 

今、「父くらい器用な人は…?」と、私が接したことのある人達を思い浮かべても、10人も思い浮かばない。幸い、私の長男がそのうちのトップクラスに入るのだが、私や父の「血」なのだろうか? いや、そんな非科学的なことを言っていてはいけない。でも、遺伝子に由来するものとは思えない。ということは、胎児期から現在までの環境因子によるものなのだろうか?

だとしたら、胎児期からゆったりと全身を動かし、手指をしっかりなめられるように育てる必要があると思う。つまり、丸くて柔らかな子宮になるような母体のケアが必要なのである。また、生出後すぐに“おひなまき”で包んで、全身の皮膚の触覚や、全ての感覚が磨かれるように育てれば、多くの人達は器用で仕事の早い人間に育つ可能性が、いくらでもあるのではと思う。

私が幼い頃から、母は親戚や近所に赤ん坊が生まれる度に、「首が据わるまでの赤ん坊は、丸くしておくもんや」と話していたことを、今でも覚えている。私が長男を産んだときも口やかましくそう言っていた。しかし、私は右後頭部が平らなので右向き癖の赤ちゃんだったはず。子どもの頃から歩けなくなることが度々あったくらい股関節(骨盤?)も悪かったけど、そこそこ丸く育ててもらったのだろう、脊柱はS字状に彎曲し、全身を協調させて動くことは得意で指先も器用に動く。私の子ども達も完璧ではないが、かなり丸く育てたと思う。孫達はかなり完璧に近く丸く育った。お陰で皆、元気で器用である。

そんな想いを抱きながら、今回の加藤先生の講演要旨集の編集作業に突入した。先生には発達に関する豊富な最新情報を、助産師・保育士のみならず、我が子の発達に悩んでいる親御さん達にも納得してもらえるような講演要旨集にするために、ご協力・ご尽力いただいた。私の真似に関する体験や想いを科学的に解説し、どうしたら模倣力や身体機能の高い子に育てることができるのかについてもお話しいただく。

今回の講演とこの講演要旨集が、皆さまの仕事や子育てのお役に立ちますようにと願いつつ、多くの方にお届けできる幸せを噛みしめ、挨拶としたい。