視知覚(ビジョン)・協調運動の発達を促す育児支援― 寝返り・ハイハイの重要性を考えよう ①

Ⅰ.はじめに

私は発達外来を担当して10年目になる。その中で、発達性協調運動障害に対してのリハビリテーション処方として、感覚統合療法主体の作業療法を介して関わっている。対象は、小児精神科で自閉スペクトラム症(旧:自閉症・広汎性発達障害・アスペルガー症候群など)、精神遅滞注意欠如多動症(旧:注意欠陥多動性障害)などの診断を受けた児や、姿勢保持・バランス・運動の苦手さ、不器用さなどの問題を抱える幼児や小学生である。私は、その児達には共通して「原始反射の残存傾向」が認められている点に注目している。

「原始反射は生後から出現し乳児期に消失する」と医学・看護学などの教科書に書かれているが、残存のアセスメントは作業療法分野等で行われ、残存しすぎている傾向を持つ児は、全ての感覚に過敏に反応し、注意集中や視知覚・前庭感覚・協調運動の問題、ひいては学習の問題や身体機能(パフォーマンス)の発達に多大な影響を与えている。

子ども達を取り巻く生活環境の変化も問題である。以前はどの家にも畳部屋はあったが、今では減少している。畳部屋だと頭を多少打ってもゴロゴロ寝返り移動が安全にできるが、硬い床に絨毯を敷きつめた部屋ではそれが難しい。また、畳の縁の上を歩くことによって、バランス感覚が養われるが、絨毯の上ではその機会は減少する。さらに排尿便毎にしゃがんでいた和式トイレは、風前の灯火となりつつある。

以前は普通に公園にあったブランコやシーソー、グローブジャングル(回転する球体のジャングルジム)が、またデパートの屋上などにあった子ども遊園地のメリーゴーランドやコーヒーカップなどの揺れ遊具が姿を消しつつある。こうして子ども達の遊ぶ場が消えていくことは、視知覚を含む発達全般に、大きな影を落としている。

 

Ⅱ.2012年以後、私が知り得たこと

2012年に出講した (有)青葉共催の日本助産学会ランチョンセミナーの後、今回紹介するオプトメトリスト 木部 俊宏氏のブログより「視覚システムの発達に影響を及ぼす『原始反射』シリーズ」と、論文「視覚システムの発達における原始反射の役割」に出会った。それらにより、視知覚と原始反射が密接に結びつき、胎動や生後の寝返りでの移動は前庭動眼反射(VOR)の強化や、感覚統合の第一歩になることが理解できた。

また、2015年5月9日(土)に開催された日本子ども学会主催「子ども学カフェ 第5回講演会」にて兵庫県リハビリテーション中央病院 子どもの睡眠と発達医療センターの小児科医 中井 昭夫副センター長が講演された内容も非常に興味深い。その講演内容を紹介したNHK福祉ポータルハートネットのWebライターの記事より一部抜粋・編集して以下に引用する。

  • 発達性協調運動障害の子どもには、誰もが無意識のうちに簡単にできる作業をこなすのが難しいという特徴がある。「ミルクを飲むときにむせやすい」「寝返りがうまくできない」「滑舌が悪い」など、乳幼児のうちからその徴候は現れているという。身体の一部の機能が損なわれているのではなく、さまざまな感覚入力をまとめあげ、運動として出力するまでの脳の仕組みに問題があると考えられている。発達性協調運動障害は、発達障害のひとつで、その頻度は6~10%と高く、小学校の30人学級ならクラスに2、3人はいる計算になる。
    日本では保育、教育の現場ではもちろん、医療、療育の専門家の間でも認知度は低く、その結果、診断方法も確立されておらず、支援の態勢も十分できていない。また、発達性協調運動障害は、注意欠如・多動性障害、限局性学習障害の子どもの約半数に見られ、自閉症スペクトラム障害と併存することも多い。

このような状態の児を「正常発達のバリエーション」として考えるだけで果たして良いのだろうか。協調運動・感覚統合・セーフティプロモーションの視点から、どのような神経ネットワークをつなぐ発達支援が必要なのかを考察し、眼球運動・寝返り・ハイハイと、原始反射の関連を知っていただき、皆様の日常診療や子育て支援につなげていただきたい。