妊娠・分娩時の呼吸循環の安定を目指して②

Ⅲ.分娩時経皮CO2濃度の変化と分娩時の過換気について

大阪大学の冨松拓治先生の研究「Maternal carbon dioxide level during labor and its possible effect on fetal cerebral oxygenation: Mini review」4) によると、未妊婦の経皮CO2濃度は37.4mmHgであり、妊婦は30.7mmHgと低値を示し、分娩第二期ではさらに低値で20.2mmHgと数値が示されており、分娩中は生理的に母体が過換気状態であるといえる。

前項でも述べた通り、妊娠時の過呼吸はCO2濃度を低下させ、胎児の低酸素に繋がると考えられる。

血中のCO2を上昇させる方法として我々は何ができるかを検討した。

Ⅳ.過呼吸軽減のためのマウスピース「tocoBreath」

血中のCO2を上昇させる方法のひとつは長く息を吐くことであり、長い呼気はCO2を上昇させる。長い呼気の代表的呼吸は腹式呼吸である。

普通の呼吸ではCO2濃度は上がらないが、腹式呼吸では約5分を経過したときに上がることが報告されている。腹式呼吸をしっかり行うことは妊婦の子宮胎盤循環、脳循環の改善に繋がることが考えられる。

分娩時の呼吸法は多数あるが、共通点は呼気を長くした呼吸である。たとえば分娩第一期のヒーフー呼吸、分娩第二期のヒッヒッフー呼吸もフーを長くすることがポイントである。また、呼気を吸気の倍以上で呼吸するように指導することもポイントである。

一方、吸気の時間に対して呼気の時間が短くなればなるほど過呼吸となり血管は収縮してしまう。

分娩中安定した腹式呼吸を行うのは普段腹式呼吸になれていない妊婦には難しいことが多い。そこで楽に腹式呼吸ができる方法はないか考え、呼気が強制的に長くなるマウスピースを作成した。完成品tocoBreath(有限会社青葉)を図3に示す。

図3 腹式呼吸が楽にできる妊娠・分娩時用マウスピース
図3 腹式呼吸が楽にできる妊娠・分娩時用マウスピース

(1)当大学病院での事前研究

このtocoBreath(トコブレス)の装着1分後より呼気終末CO2が速やかに上昇する。(図4、図5)

図4 tocoBreathによる呼気終末CO2濃度の変化
図4 tocoBreathによる呼気終末CO2濃度の変化tocoBreath装着1分後程度よりCO2が上昇

tocoBreath装着と呼気終末CO2と呼吸数、脳の酸素飽和度との関連を見るとtocoBreath装着後CO2 と母体の脳の酸素飽和度は上昇し、外すとCO2が下降し、呼吸数は上昇、母体の脳組織酸素飽和度は低下することも観察された(図6)。

図5 tocoBreathによる呼気終末CO2濃度の変化
図5 tocoBreathによる呼気終末CO2濃度の変化tocoBreath装着後すぐにCO2は上昇、外すと下降、再装着で再上昇

胎児心拍数モニタリングは行っていないが、tocoBreath装着時にlevel3以上の胎児心拍数モニタリングが鳴ることはなかった。tocoBreathは脳循環を改善し脳の組織酸素状態を改善する作用があることが解る。このことは分娩時のCO2上昇は母体の精神にもよい環境を生み出している可能性がある。