乳児期・学齢期の子どもの姿から、胎児期・乳児期にできることを考える④
3.各期における感覚統合
乳児期は自身の力でピラミッドをうまく積み上げられるよう、土台となる感覚を感じとる力を育てる重要な時期である。そして胎児期もまた、感覚を感じる場所である感覚受容器が発達し、感覚と初めて出会う時期でもあり、とても重要である。だからこそ、赤ちゃんを取り巻く環境や日々のお世話、遊びを丁寧に意味づけし、目の前にいる赤ちゃんにとって「心地よい」を探る姿勢が大切である。
1)胎児期
感覚統合は胎児期から始まっている。子宮内での胎児の動きは、無目的に見える動きから目的のある動きへと変化する。手足を動かした結果得られる触覚・固有受容覚・前庭覚の感覚体験の積み重ねにより、因果関係を把握できるようになる。そして自身でその関係性を確かめようと、同じ動きを繰り返すようになる。そして子宮内で自分の体の輪郭を把握し、体の内側と外側を知り分け、体のイメージが形作られ始める。この頃の体のイメージは母親の子宮の形であろうと考えられる。骨盤や子宮内環境の違いで、胎児の動きの量・質的な違いがみられると、出生後の感覚系の処理機能に差が出る可能性がある。
表1 胎児期の感覚
《良好な子宮環境》
- 触覚
8週~
胸腹部以外が子宮に触れる
手足で体の各部分に触れ、自分の体と子宮を学習 - 固有受容覚
20週~
背中は丸く、両手両足が屈曲した姿勢
子宮壁を押す・蹴る、指を吸う - 前庭覚
15週~
母親の動きを感じる
胎動に伴い自分の体が回転する
《不良な子宮環境》
- 触覚
8週~
不良姿勢により、子宮壁に触れる面が減少する - 固有受容覚
20週~
左右非対称、ねじれを伴う姿勢
自動運動の減少 - 前庭覚
15週~
母親の安静度が高くなると、動きを感じる機会が減少
不良姿勢により、胎動が制限
2) ねんね期 ―本当は胎内にいたいのに―
ヒトは生理的早産の状態で生まれる。誕生後3カ月は、胎児と同様な環境で生活することが「快」であると言われているが、地球上に生まれてきたので、重力とのお付き合いが始まる。まずは呼吸。胎内では肺水(羊水+肺胞液)で満たされていた気道・肺は、生後間もなく空気で満たされる。呼吸・哺乳という命を育む行為の安定があってこそ、その上で感覚統合が始まる。
胎児期では小さく丸まっていた子宮の中から広い空間での生活が始まり、常に子宮壁で包まれていた環境から、誕生後は自分の体に触れるものが変化し続ける。自分の体は母親の子宮の形だと思っていたのに、自然にそのような状態に戻ることはない。赤ちゃんは不安でいっぱいである。感覚を通して自分の体や環境を把握したくとも、不安な状態では進めない。ねんね期は、安心・安全の確保の時期である。
この時期「母親との心地よい触れ合い」を大切にしたい。皮膚は全身を覆っているので、自分の内側と外側との境界を伝えてくれる器官である。母親に優しくなでてもらうことを通して、信頼関係だけでなく、自分の体への安心感・信頼感が育まれる。そして心地よい触れ合いを通して、体のイメージが新たに形作られていく。
しかし出産後の不安定な骨盤の影響で、思うように体が使えず、児が心地よいと思う関わりができない。
この時期は一人で子育てしようと思わず、体のケア、児のケアも専門家に頼り、どうしたら楽に子育てができるかを、選択できるように支えていく必要がある。
表2 ねんね期の感覚
《ねんね期の児の快》
- 触覚
毛並みに沿ったソフトタッチや、広い面で均等な圧 - 固有受容覚
背中は丸く、両手両足が屈曲した姿勢を保ったまま、ふんわりと包まれる抱っこ - 前庭覚
胎児期に母が歩いていたのと同じ揺れ(前後・左右・上下の組み合わせ)
ゆったりとした動き
《実際》
- 触覚
タッチが強い・スピードが速い - 固有受容覚
母親の体のねじれが伝わる 左右非対称な姿勢 力が強すぎる抱っこ - 前庭覚
ガクガクとした動き 単一的で速い動き