乳児期・学齢期の子どもの姿から、胎児期・乳児期にできることを考える⑤

3)ころころ期以降 ―重力と仲良くなりたい―

仰向けの姿勢で両手両足体幹を持ち上げ、自分の体の重さ、重力の大変さ、思い通りにならない感じを堪能する。そしてあるタイミングでバランスを崩し、寝返りが始まる。何度か偶然が重なるうちに、自分で作り出していた不安定さが移動のきっかけになったということに気が付く。これ以降は、支える面が減ってもバランスを保てた、移動できた、目線が上がった世界を見ることができたということが究極の「快」となる。ここからは見守ることが大切な時期となる。感覚統合理論では、子ども自身の力で積木を積み上げることを重視している。この時期に子どもの探索行動を制止することや、姿勢保持や移動を助けてしまうことは、子どもの「快」を奪うことになる。そればかりか、姿勢を保つために大切な重力に抗する姿勢を保つ経験や、バランスをとる経験、体のイメージを養っていく経験を奪うことになる。

この時期は、児がどんな感覚を満喫しているのか見守りつつ一緒に遊んでほしい。児と同じ姿勢をとり、していることを真似してみると、児がどんなことを楽しんでいるのか共感できる。またその姿勢をとることそのものが、母親の体作りにつながる。立ち上がって歩き、走り出したらさらに母親の体力が要求される。そのための準備期間だと思って体作りに励んでほしい。

表3 ころころ期以降の感覚

《ころころ期の児の快》

  • 触覚
    興味関心のあるものを、口や手で積極的に探索
  • 固有受容覚
    体の回旋や手足で踏ん張る動きで、肩甲骨周囲や頸、体幹の活動性を高める
    重力に抗する姿勢を保つ
  • 前庭覚
    軸性の回転や水平移動にて、行動範囲を拡大 視線を上げていく

《やってしまいがちなこと》

  • 触覚
    大人が制止してしまう
  • 固有受容覚
    手伝いすぎてしまう
    自身で獲得していない姿勢をとらせてしまう
    Ex)お座りの練習、歩行器など
  • 前庭覚
    同一姿勢で過ごすことが多く、自身で移動する時間が少ない

4.母親の身体的背景

感覚統合理論を作ったエアーズ博士は「子どもは自分で変化するのであって、セラピストはただそれを促したり導いたりできるのみである」と述べている。つまり大人ができることは、子ども自身で変化を引き起こせるように環境を準備することだけなのである。胎児期の環境は母親の体そのものである。乳児期は抱っこで過ごす時間も多く、身の回りすべてのお世話を母親中心にゆだねており、母親は環境として重要な位置を占める。

車社会、家電の利便化、座りっぱなしの仕事環境、子ども時代の遊び環境の変化などから、現代の女性は筋肉、骨格ともに未熟なまま成人していると言われている。現代女性の靭帯は細く脆弱であるため、妊娠期に全身の靭帯を緩めるリラキシンの影響で過剰に緩む。すると、細くて硬くて弱い筋肉では補完できず、全身が緩みすぎてしまう。

当然、骨盤の靭帯も緩みすぎてしまうため、胎児の「お部屋=子宮」を支えている「骨盤」も緩み、妊娠中も出産時も様々なトラブルに見舞われる。骨盤底は拡大し内臓は下垂し、骨盤内臓器である子宮はいっそう押し下げられる。こうなると、骨盤内も絨毛間腔も血液循環は悪化し、十分な酸素も栄養も胎児には届かなくなる。

妊娠中も産後も大黒柱 (脊柱)の土台(骨盤)が緩みすぎると、それを補うために全身の筋肉が硬直し、姿勢を保つにも、体を動かすにも、ぎこちなさと疲労が付きまとう。いつも体調がすぐれず、自分自身の苦痛から逃れるためだけで精一杯。その体で胎児や新生児の「心地よさ」に気を配る余裕もない。同時に、体や運動に関する感度が下がってしまい、胎児がいる腹部や乳児に「優しく」「そっと」「やわらかく」「ゆっくり」と触れることが難しくなる。

胎児が心地よく過ごすためにも、乳児に優しく触れるためにも、骨盤ケアで健康な母体を育てることは必須である。また、骨盤ケアを毎日続けることは、自分自身の体とのコミュニケーションであり、体の声に耳を傾け、感覚を研ぎ澄ませることである。

産後のトラブルが解消されることなく、母親の心身に余裕がないと、児と一緒に動けず遊べない。そうなると、心身のバランスは悪化し筋力は低下。⇒動くことが苦痛になる。⇒率先して動くことを避けるようになる。⇒自分がしたいことができない。⇒生活の中で達成感が得られない。⇒自分自身のやりたいことすらわからなくなる。このような悪循環に陥る。

子どもは教えなくともその姿を真似する。体の「快」を追求することは、母子の健康な体を育てるだけでなく、児の望ましい発達を保証するものとなる。

5.おわりに

「発達する」を英語で表すと「develop」になる。このうち「de」は「~ない」、「velop」は「包み込む」という語源を持っていて、合わせると「包みを開く」という意味になる。つまり「発達する」とは、「包み込まれた可能性を開かせてゆく過程」のことである。

もちろん「子ども自身」が主役となり「可能性を開かせてゆく」のは当然である。そして母親は、子どもが独自の発達ストーリーを歩んで行けるように、胎児期は環境そのものになり、誕生後は「快」を与える立場に、動くようになってからは見守る立場になるという、今までの生活ではなしえなかったことを要求される。これもまた「母親」が主役となり「可能性を開かせてゆく」のだと思う。

 

参考文献