妊産婦・医師から信頼を得るためのキーワード「骨盤ケア」 ①

1.はじめに

京大病院を退職し、整体サロンを開いてはや11年が経とうとしている。私は京大在職中から「近い将来、女性の体力の低下によって、母子医療は大変なことになる」との危機感を抱いていた。それが退職を決意し整体で生きる道を選んだ一つの理由であるが、私の予想以上に急速かつ深刻に、女性の体力低下と母子医療危機は進行してしまった。

近年、女性の多くが腰痛を訴えていることは、さまざまな雑誌などに掲載され、骨盤ブームを巻き起こしている。また、整形外科医によって「女性、特に妊産婦の腰痛の原因は骨盤にある」と報告されている1)。骨盤に由来する腰痛の原因は、骨盤の弛緩・ゆがみが挙げられる。骨盤の靭帯も筋肉も、人類史上経験したことがないほど弱くなっている。そのため骨盤は緩み変形し、妊娠子宮や内臓を支えることすらできなくなり、妊娠中の子宮脱も珍しくない時代となった。

2.骨盤を診ずして分娩を語れない

骨盤は骨産道であり、分娩の三要素の一つである。骨産道を診ずして分娩を語ることは、胎児を診ずに分娩を語ることに等しい。見過ごされがちとなっていた骨盤を見る目を養い、ケアすることにより、妊娠中から産後のマイナートラブルは減少する。のみならず、切迫早産・分娩時出血も減少することも、すでに医師・助産師らにより調査研究され発表されている。骨盤位・帝王切開率・妊娠高血圧症候群・胎盤機能不全なども、未だ研究発表されるまでには至っていないが、骨盤ケアによって改善していることは、我々のメーリングリストなどで情報交換されている。

また、骨盤ケアによって仕事が楽になり、妊産婦からも医師からも喜ばれ、信頼を得られるようになっていることも報告されている。そう考えると、妊産婦・医師から信頼を得るためのキーワードは「骨盤ケア」であると言える。

骨産道を精密に観察し、診断能力を高め、妊娠分娩経過を安全に導く能力を高めることが、今日の母子医療危機を打開する緊急かつ重大な課題と私は思う。母子医療危機の原因として、早産などの増加が挙げられている。なぜ早産が増えるのか? それは妊娠異常になりやすい体の女性が激増しているからである。では、どのような体だとそうなるのかを次に述べる。

3.類人猿型骨盤の増加とその理由

産科学書には「女性の骨盤入口は縦径より横径が長い楕円形」と書かれ、解剖学書には「成人の脊柱はS 字状に彎曲している」と書かれている。しかし近年、二十代から三十代の女性の骨格を観察していると、このような正常な骨格の特徴を持つ人は極めて少ない。
多くの女性の骨格の特徴は、

  1. 胸郭が薄く背部が平ら。つまり脊柱のS 字状彎曲が弱い。
  2. 仙骨部が突出し横幅の割には縦幅が長い。つまり、骨盤は類人猿型に近い。

現代の出産世代の女性は、何年にもわたって和式のトイレにしゃがみ込むことも、農作業や草引きをすることもせずに育った人が多い。そのため、大臀筋などの股関節外旋筋群の発達が悪く女性型へと成長発達していない。

4.類人猿型骨盤だと妊娠分娩はどうなる?

妊娠分娩異常を起こしやすい骨格の特徴、それは正常なS字状彎曲のない脊柱と類人猿型骨盤である。このような妊婦の骨盤の中にある子宮は下垂しがちで、子宮筋は硬直し、その中のGS は細長くいびつであることが多い。また、弛緩した骨盤腔内はうっ血して、胎盤内の酸素飽和度も低下させ、胎盤機能低下やIUGR も引き起こす。

類人猿型骨盤では矢状縫合は横径に一致して固定することはなく、縦径に一致して固定する。しかも、骨盤入口は広く児の脊柱は後彎していないため、反屈位になりやすく、しかも第二分類になりやすい。さらに、骨盤濶部が広すぎるため、第二回旋中に反屈位と不正軸進入が悪化し、児頭周囲はますます大きくなるので出口部を通過しにくい。

また、横径より縦径がわずかに長い程度だと縦径に一致することもできず、高在縦定位のまま遷延しやすい。どちらも自然分娩困難になりがちである。また、類人猿型骨盤に第一分類で骨盤に陥入すると第二回旋の必要がなく、分娩は急速に進み、墜落産の危険性が高くなる。

図1-1 正常腰椎も仙骨も緩やかに彎曲 骨盤入口部・濶部・出口部の広さに極端な違いがない
図1-1 正常腰椎も仙骨も緩やかに彎曲 骨盤入口部・濶部・出口部の広さに極端な違いがない
図1-2 近年多い骨盤 腰椎の彎曲はほとんどなく仙骨は強く彎曲し濶部が広い。尾骨は産道に食い込み骨盤出口部は狭い
図1-2 近年多い骨盤 腰椎の彎曲はほとんどなく仙骨は強く彎曲し濶部が広い。尾骨は産道に食い込み骨盤出口部は狭い

 

以上は近年増えているとの報告をまとめたものである。皆さんもぜひ、骨産道と児の体位・体向・胎勢、分娩進行について観察していただきたい。類人猿型骨盤で子宮下垂を伴うと、妊娠中の全期間、児頭は骨盤内に陥入していることが多いので、骨盤高位で骨盤輪固定すると妊娠経過は良好となり、安産へと導くことができる。

反屈位で骨盤に陥入している場合は、陣痛発来後でも骨盤高位とし、児頭を浮遊させてから骨盤輪固定し、操体法などで体のゆがみを改善すると、その後は順調に進行することが多い。陣痛発作時に産婦は体をくねらせることが多いが、この動きは自然発生的に体のゆがみを直そうとしている動きなので「体を真っ直ぐにして! おへそを覗き込んで!」と声かけるのは逆効果である。