骨盤ケアで改善! PART9発達外来の子どもから見えてくる胎児姿勢・新生児ケアの重要性 ①

はじめに

私は小児の発達を専門とする小児科医で、現在は産婦人科での発達健診と2か所の小児医療施設で、協調運動が苦手な発達障害(自閉症(Autism);広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:以下PDD);注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit/Hyper-activity Disorder: 以下AD/HD)など)の子を対象に、感覚統合療法を主体としたリハビリテーションを担当している。

今日は、出産の現場で働いている助産師の皆様に、ぜひとも知っておいていただきたいことを中心にお話しする。

まず理解してほしいこと
①発達のつまずきを作らないように、新生児期から一人一人に見合った保育ケアが必要であること
②乳幼児の発達の基礎である原始反射の残存と、姿勢反射の獲得状況を正しく知ることの大切さ
③母親のみならず、母子保健を担う助産師・看護師・保育士の体作りが、良好な保育ケアの提供に不可欠であり、予防医学的に重要であること

 

Ⅰ.子どもたちの身体発達の推移と現状

1.子どもの体の“おかしさ”

数十年前から「朝からアクビ」「背中ぐにゃ」など、子どもの体の“おかしさ”について、各地の保育士や教師から報告されてきた。正木健雄日本体育大学名誉教授は、このような子どもの体の“おかしさ”が、全国規模で起きているのではと考え、1978年から25 年間にわたり、子どもの体の変化について調査・研究を続けた。その研究報告の中で、正木は「腰の力」=「背筋力指数」が落ち続けていることを指摘している。

正木の報告では、女子の背筋力指数の平均値は1.5以下となっており、日本の女性の半数は、育児をすると腰を痛めるということである。男子でも中学3年生で2.0以下が増加傾向にあり、高齢者介護が困難というレベルになっている。

このまま進めば、重力圏内で直立姿勢で生活し、運動や労働をすることが困難な人間が大半を占めるようになることが、十分に予想される、恐ろしい事態であると指摘されている*1)。

  • 表1 背筋力指数(=背筋力(kg)/体重)
    「背筋力指数」とは、重力に抗して直立姿勢を保つ筋力の様子がわかる指標で、地球上の重力のある生活で、自分の姿勢を保つには体重と同じだけの背筋力が必要である。
    1 … 地球上の重力の中で立位姿勢を保てる最低ライン
    1.5 … 自分の体重の半分の子どもを抱ける最低ライン
    2.0 … 自分と同じ体重の人を介護ができる最低ライン

2.京都府における生徒の運動器検診から見えるもの

2005~2007年度に京都府の小学校・中学校・高校計9校の生徒約1,500~3,600人を対象に運動器検診が実施(京都府医師会学校保健委員会:たちいり整形外科立入克敏院長)された。

しゃがみ込みができないということは、和式トイレでの蹲踞姿勢や「ヤンキー座り」ができないことと、「ジベタリアン」の増加を意味している。

このように、体が硬い子どもが予想以上に多く、スポーツ障害に結び付きやすいことを示唆している。そして、障害を予防するためには、運動器検診で早期発見することの重要性を報告している*2)。

  • 表2 高校生の運動器検診結果
    前屈で指先が床に付かない…20~30%
    しゃがみ込みができず後ろに転倒…10%前後

3.子どもの言語発達の遅れ

昭和55年から平成22年の乳幼児の運動機能通過率曲線で“ひとり歩き”の90%通過月齢は14ヶ月前後で大きな変化はない。一方、平成2年、12年、22年の言語機能通過率曲線で、“単語を言う”の90%通過月齢は10年ごとに1ヶ月の遅れが認められる。

言語の遅れは学習能力の低下を意味している。 “ひとり歩き”の開始に遅れがないから子どもの発達には問題がないなどと、安閑と見過ごすわけにはいかない重大な問題である。

このような子どもの体の“おかしさ”や弱さ、さらには、学習能力の低下まで引き起こしている原因について考えたい。