骨盤ケアで改善! PART9発達外来の子どもから見えてくる胎児姿勢・新生児ケアの重要性 ⑤

私は2011年、小学校の中学年以降でも非対称性緊張性頸反射(ATNR)が残存し、後方の保護伸展反応が出現していない症例があると報告した*13)。立ち直り反応や姿勢反射の異常を持つ児は、パーキンソン病の高齢者と同様に、脊椎の軸を中心とした回旋運動、すなわち寝返りなどの動作が苦手である。同時に、手首・肘を回す、足首を回す、股関節を屈曲するなどの関節の連続的な動きがぎこちなく、蹲踞し続けるなど屈曲保持を維持することが苦手である。また、身体の正面方向に膝をしっかり屈曲保持できなければ、靴下を履くことも困難である。

幼児で非対称性緊張性頸反射(ATNR)が残存すると、四つ這い位で頭部を回旋する時、頭側の肘関節が屈曲し、顔側の肘関節は伸展する(図12)。

図12 非対称性緊張性頸反射(4歳児での残存検査)
図12 非対称性緊張性頸反射(4歳児での残存検査)少し右を向くだけなら両肘を伸展させているが、大きく向くと頭側(左)の肘が屈曲している。

 

対称性緊張性頸反射(STNR)が残存すると、頸伸展時、肘関節・手関節は伸展し、股関節・膝関節は屈曲する。また頸屈曲時は肘関節・手関節が屈曲し、股関節・膝関節が進展してしまう(図13)。

図13 対称性緊張性頸反射
図13 対称性緊張性頸反射(4歳児での残存検査)

これらの原始反射の長期残存は、正中位指向の発達・寝返りの困難性・対称的な姿勢や頭部挙上の発達・追視の困難(読書困難につながる)に影響を及ぼすことが指摘されている*14)。具体的には、年長児では自転車に乗って頭部を回旋させると、手ブレーキをかけられず、字を書いている時に頭部の大きな動きが加わる場合は、手の力が抜けたり、黒板を板書する時に字の大きさが不揃いになったりする。

このような原始反射が残存する児は、乳児期に四つ這いや高這いをしなかったり、高這い姿勢をとれなかった子どもたちが大半である。這わないということは、大腰筋・腸腰筋を使って股関節を屈曲できず、肩甲帯を使って上肢を動かす協調運動ができず、脊柱起立筋や腹横筋、腹斜筋などインナーマッスルのトレーニングが十分できないまま起立・独歩してしまったということである。

脊柱柔軟性や骨盤の支持性がなければ、床に手が着かず、パラシュート反応が十分獲得できていなければ、「天の橋立の股のぞき」のポーズができない。立ち直り反応が十分獲得されていないと、押されたり、体が接触するような動きは怖くて、集団遊びに入ることができず、自分を守るためにひとり遊びを好むことになる。頭が下がるポーズや手をついて加重するのが苦手で、跳び箱を飛び越せなかったり、雑巾がけができずサボっているように誤解されがちである。

また、図14のように項部を伸展して顎を引き保持し続けられず、肩甲帯・上肢の同時収縮が十分でなく、脚を抱え込んでのマットゆりかご(だるまさんゴロゴロ)ができず、逆上がりが苦手で、鉄棒・うんていにぶら下がれず、自身を支える力がついていない。

図14 腹臥位伸展姿勢 と 仰臥位屈曲姿勢
図14 腹臥位伸展姿勢 と 仰臥位屈曲姿勢

 

20年以上前から小学校では転んで手掌をすりむくのではなく、顔面の怪我をする児が増えていることが報告されている。運動会で転んだり、組体操で保持できないなどで前歯を受傷し、歯科受診する児童に共通しているのは、手に傷がないことである。体のバランスをくずしても、手で顔を守れないために、前歯を地面にぶつけてしまったと歯科医師は気づいている*15)。このような児は形成外科や歯科を受診するので、乳幼児健診を担当している小児科医はその事実を知らないままと思われる。

現在の乳幼児健診では、乳児期に這わなくても、寝返りが片方しかできなくても、寝返り移動(腹横筋・腹斜筋などを使って体幹の立ち直りを獲得する)をしていなくても、1歳6ヶ月頃までに独歩できれば問題にならない。発達障害を心の問題と捉えてしまっているのだから、乳幼児健診を担当している小児科医の責任が問われて然るべきだと思う。子ども達を取り巻く便利になりすぎた環境の中では、布団の上げ下ろしや和式トイレでしゃがむこともなく、日常生活で体力が養われないまま子どもたちの体の不幸(?)な変化に気づかず、気づけないままなのは残念ながら小児科医である。健診で「大丈夫です」と言われれば、母親は「異常ではない」と認識してしまうのが普通である。

だるまさんゴロゴロ (マットゆりかご)ができなくても、逆上がりができなくても、跳び箱が飛べなくても日常生活は送れる。事実、現東京都立小児医療センターの山田佐登留医師は、「縄跳び・スキップ・お遊戯などが苦手でも、それらは日常生活に不可欠なものではない。発達性協調運動障害を持っている子は、不器用であっても社会生活を問題なく送れることが多い。学齢期間中に苦手意識を持ち、強く自己評価を低下させたり、からかいの対象にならないように、いかに考えていくかが重要である…。苦手なことの訓練を無理強いすると、ますますその課題を嫌いにさせてしまうので、達成可能な興味の持てる課題から、段階的に練習を行う必要がある」ということや、「一部の困難は適正な訓練を元に改善できる可能性があることがわかった」と述べている*12)。

しかし、協調運動障害や不器用という実態は、危急時に自分の頭や顔を守る身体運動機能(大脳基底核の姿勢保持・歩行・筋緊張保持機能)が十分に発達していないことを意味する。はたしてこれを看過してよいものだろうか?

椅子や洋式トイレの生活が定着し、和式トイレの生活がなくなり、正座で食事をすることもなくなり、正木が指摘するように背筋力も年々低下し、足腰は弱くなっている。また、道場や体育館の雑巾がけは脊柱の柔軟性・大腰筋・腸骨筋などのインナーマッスルを強化し、準備体操の意味があったと思われるが、今ではめっきり減っている。