厳しい妊婦体重管理は必要か?― DOHaDと先制医療から考える ①

Ⅰ.はじめに(DOHaD 説:ドーハッド説Developmental Origins of Health and Disease)

今、生活習慣病を含めた成人病が著しく増加している。日本では医療費が著しく増加しており、中でも生活習慣病の治療費が多くを占めており、その予防こそは個人、社会にとって極めて重要な課題といえる。
生活習慣病の発症には、疾患感受性遺伝子は当然関係しているが、この急激な増加は疾患感受性遺伝子以外の原因が関与していることを示している。英国のバーカー先生の「成人病胎児期発症起源説」がこれら成人病の発症機序として注目されており、この考え方は大きくDOHaD 説に発展している1)。
すなわち、「受精時から胎児期の子宮内及び乳幼児期の望ましくない環境への曝露(First insult)がエピジェネティクス変化を起こし、病気にかかりやすい体質がつくられ、出生後に過食・ストレス・運動不足等のマイナス環境への曝露(Second insult)が加わることで成人病が発症する。
成人病はこの2 段階を経て発症する。」という大きな医学上の概念に発展している。この考え方は、生活習慣病発症メカニズムの解明、それに基づく予防戦略や健康政策を進めていく上で極めて重要である、このDOHaD 学説(Developmental Origins of Health and Disease:的確な日本語が無く、日本DOHaD 学会ではその名称を検討している)が大きく注目されて大きく研究が進展してその疾病発症メカニズムが明らかになりつつある。そのなかでも栄養の影響は特に重要である。
健康または疾病の大元はエピジェネティクス(遺伝子の働きを調節するメカニズム)の変化であり、そこに栄養が特に強い影響を与える。現在、それを対象とした「栄養のエピジェネティクスNutri-epigenomics」という新たな学問領域が展開している。

 

Ⅱ.出生体重低下と疾病リスク

小さく生まれた場合は、胎内での発育が正常であったが早産で生まれた場合と、胎内で低栄養環境、環境化学物質、過大なストレスへの曝露等をうけて発育が抑制されて生まれた場合がある。膨大な疫学調査から、これら両者は共に、高血圧・心臓循環器系疾患、耐糖能異常・(2型)糖尿病、メタボリック症候群、骨粗しょう症、脂質異常症、精神発達異常、慢性閉塞性肺疾患等の成人病(生活習慣病)発症リスクの高いことが明らかとなってきた(表1)。

  • 表1 出生体重低下による発症リスクが上昇する疾患
    ①高血圧・心臓循環器系疾患
    ②耐糖能異常・(2型)糖尿病
    ③メタボリック症候群
    ④骨粗しょう症
    ⑤脂質異常症
    ⑥神経発達異常
    ⑦慢性閉塞性肺疾患
    ⑧初経・閉経の早期化
    ⑨SGA 性低身長
    ⑩妊娠合併症

更に、閉経の早期化や、SGA性低身長、妊娠合併症を発症し易い。閉経年齢は全世界的に51 ~ 52 歳前後であるが、日本で最近は40代半ばの閉経例が増えている。閉経までは、エストロゲンにより心臓循環器系疾患、脂質異常症等の発症が抑制されているが、閉経後はエストロゲンの消失によりそれら疾病が急激に増えていく2)。
閉経の早期化はより早期にそれら疾患の発症リスクが高くなる。また妊娠合併症としての妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病は、妊婦自身の出生児体重が小さければ小さいほどその発症リスクが高くなることが知られている。逆に巨大児等の過大な出生体重児にも同様のリスクがある。それを考えると低出生体重児頻度の高い日本では今後生活習慣病が増えていくと予想される。