厳しい妊婦体重管理は必要か?― DOHaDと先制医療から考える ④

図4は20代女性のエネルギー摂取量の推移をみたものである。

図4 20代女性のエネルギー摂取量の推移
図4 20代女性のエネルギー摂取量の推移

PALⅡ(通常の運動量)の20代女性の推定エネルギー必要量は1950kcal(日本人の食事摂取基準2015年版)であり、現在は1600kcal前後であることからも平均摂取エネルギーは著しい不足状態にある。当然であるが、カロリー摂取量が少なくて他の必要な栄養素が十分確保できることはあり得ない。妊婦栄養調査の報告では、不思議なことに、胎児が成長していくにもかかわらず妊娠中のエネル
ギー摂取量は全期間(妊娠初期、中期、末期)を通じて、非妊時と変わらない3)。エネルギー摂取量の絶対量が不足している。必要なエネルギー量を摂取していくことがまずは第一歩といえる。ちなみに、エネルギー付加量は初期50kcal,中期250kcal,後期450kcal(日本人の食事摂取基準2015年版)とされている。現在の妊婦にはとても充足していないのが現況である。

痩せた女性が妊娠した場合、切迫早産、早産、満期でも妊娠期間の短縮や、児の出生体重が低くなる傾向がある。他の体格群(BMI18.5-25.0,25.0 以上)と比べると、妊娠中の体重増加が児の体重に比較的影響する体格群である。できるだけ体重を増やす努力が望ましい。しかし体重増加量が14kgを越えると血圧の上昇が生ずることがある。痩せた状態で妊娠した方は、以下(Ⅴ.)にのべる体重増加量をめやすにしてほしい。

 

Ⅴ.妊娠中の体重増加と栄養

従来は妊娠合併症を防ぎ、安全な分娩を目的として厳格な妊婦体重管理が産科外来の重要な課題であった。しかしDOHaD 説の次世代の健康及び疾病を予防するとの考え方が体重管理にも徐々に浸透してきている。日産婦学会(産婦人科診療ガイドライン―産科編2014)では、「(妊娠中の母体)体重増加量は栄養状態の評価項目のひとつであり、体重増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける」。また更に英国のガイドライン(National Collaborating Centre for Women’s and Children’s Health)では、「初診時に(体重・身長を)測定して栄養状態に問題がある場合のみ、 定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では 体重を測定しないことを推奨(定期的な体重測定は妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎず、メリットがない。)」とする指針が提示されている。現在多様な妊娠中の望ましい体重増加量の考え方が示されているが、それは必ずしも統一されてはいない。
この現況は日産婦学会の考え方に示されている様に、厳格な体重管理は児の将来の健康を確保する上で決して厳格な根拠あるものでないことを示している現象と理解される。

遺伝子発現を制御のエピジェネティクスに影響する栄養素として、炭水化物、葉酸、ビタミンB12、ビタミンD、脂肪酸等の多くがあり、その分子機序が解明されつつある4)。
バランスのとれた栄養素を、妊娠する前から必要で十分な量摂取することが大事である(妊活という新しい名称が登場し、妊娠前の栄養の重要性を示している)。
炭水化物はヒストン蛋白質の修飾(ヒストンコード)に重要であり、特殊な症例以外は妊娠中の低炭水化物食は決して望ましいものでない。母乳哺育児にクル病が増えてきている。日焼け止めクリームもほどほどにして母親と子どもの血中ビタミンD濃度を上げるべきである。ビタミンB群でも、葉酸のみが大事ではなく、他のビタミンB群の摂取も必要である。葉酸の過剰摂取は厳禁である。次世代の健康を確保するには幅広い栄養を必要で十分な量を摂取していくことが不可欠といえる。