厳しい妊婦体重管理は必要か?― DOHaDと先制医療から考える ⑤

Ⅵ.ビタミンD の意義・重要性

現在クル病児が増加傾向にある。その特徴は母乳哺育を行っている児にクル病が発症しており、人工哺育児は発症していないことである。それは母体が25(OH)D の低い状態で授乳して、児が欠乏状態になった可能性がある。妊婦血中25(OH)Dの低値は、日焼け止めクリームの多用、魚類の摂取量の著しい低下がその背景にあると想像される。また児の日光浴の勧めが母子手帳から消えて、日光浴を行わなくなったのもその要因としてある。時に日焼け止めクリームを乳児に使用する例もあるとすら伝聞される。
なおビタミンD摂取量の経年的な推移は、全年齢の女性で低下している。ちなみに妊娠中の推定ビタミンD必要摂取量は7.0μg であるが、とてもその値に達していない。生物学的に重要なビタミンであるのでその重要性を知っていただきたい。

ビタミンDは骨・Ca 代謝を調節するビタミンであるが、それ以上に多様な生物学的作用がある。ビタミンDの受容体は身体すべての細胞に存在している。身体全体のそれぞれの細胞にビタミンDが必要であることを示している。ビタミンDの作用としては、(表2)に示すごとく、1)免疫系の制御、2)糖代謝、3)細胞分化、4)中枢神経系の機能に大きな影響を及ぼす5)。

  • 表2 ビタミンDの作用
    ・骨・Ca代謝
    ・免疫系
    ・細胞分化(抗がん作用)
    ・心臓循環器系、血圧調節
    ・インスリン分泌、糖代謝
    ・中枢作用

ビタミンDが1型糖尿病、多発性硬化症の発症に関与していることも明らかとなってきた。北欧では1型糖尿病が多く、母体ビタミンD不足が一つの原因でもあるとされている。そこで一部の地域では分娩後にビタミンDシロップの予防的投与が行われており、発症を抑制する成果を挙げている。膵臓β細胞周囲にはビタミンD受容体が多数存在しており、ビタミンDの不足が1型糖尿病発症に関連していると想定されている。また糖代謝へも関与している。胎生期の中枢発育や脳リモデリングにも関与している。
またスペインでは出生早期よりビタミンDを投与して、精神発達遅滞を予防する効果を上げている。高緯度に位置している英国では、古くからビタミンD不足が問題とされ、多くの調査研究がなされてきた。これらの報告からも、クル病児の増加している日本の妊婦や医療関係者にビタミンDの重要性を理解していただきたいと思っている。

古くより、ヨーロッパでは成人後の疾病発症に、出生季節・月が関与していることが知られていた。45 万人のデータを解析したUK Biobank study では、出生体重、初潮年齢、成人後の身長は出生季節により変化しており、それは第2トリメスター(妊娠中期)の日照時間に関連していることが報告されている6)。興味ある点として、出生後の児の日光曝露時間には関係がなかった。また低出生体重児の頻度も同様な季節性変動が認められている。

これらの報告は胎児プログラミング説を傍証するものといえる。これらの現象に影響を与える主な要因は、母体血中の25(OH)D 濃度であり、特に高緯度地域では明確に季節変動を示している。特に母体の妊娠中期の血中25(OH)D 濃度は、これらの出生後の身体発育をプログラムするものであるといえる。

 

Ⅶ.終わりに

「妊産婦のための食生活指針」(厚労省:2018 年)が提示されている。これは妊婦栄養の重要性を明確に示した指針である。HP からダウンロードできるので、是非日常臨床に活用していただきたい。医療関係者のみではなく社会全体が、妊婦や女性の栄養状態に大きく関心を払い、その重要性を周知されていくことがこれからの社会の健康度を決めていく重要な課題といえる。

 

参考文献