骨盤ケアで改善! PART7不良胎勢は整形外科疾患と深い関係がある ②

2.頭位で膝を伸展している場合には股関節脱臼は極めて高い頻度で発生する。

1974年から1980年までの京大病院ならびに大津赤十字病院において、図6のような反張膝は7例(発生率約0.008%)で、このうち6例に股関節脱臼を認めた(85.7%)。

図6 反張膝 膝伸展の頭位分娩児
図6 反張膝 膝伸展の頭位分娩児

 

頭位で膝が伸展している場合には、膝関節は単に伸展しているのではなく、このように過伸展( 逆向きに曲がった状態) となり「反張膝」となっていた。

Ⅲ. 考察

1.胎位胎勢別にみる股関節脱臼発生率

頭位6,075中42例、複殿位31例中0、足位46例中1例、単殿位111例中22例で、単殿位分娩児が高率であった。両側性脱臼を考慮すると、脱臼児は65例、脱臼股81股であり、頭位からの脱臼股は48股、複殿位0、足位1股、単殿位32股なので、全脱臼81 股のうち単殿位からの脱臼数は32股(40%)となる。しかも単殿位からの脱臼は重症例が多いことを考慮すると、先天性股関節の発生要因として、単殿位がいかに大きく関与 しているかがわかる。

2. 胎位固定時期

産科健診の際に胎児を超音波断層像で観察すると、30 週頃までは胎内は比較的余裕があることが多く、四肢や脊柱を自由に動かして骨盤位や頭位などさまざまな胎位・胎勢をとっていることが多い。しかし、30 週を過ぎてくると胎児に対して子宮は相対的に小さくなり、胎児は自由に運動する余裕がなくなってゆく。この時期に双角子宮などの子宮の形の異常や臍帯巻絡、あるいは、胎児の筋力が弱いとか、運動機能不全など、なんらかの理由で胎児の運動が妨げられると、それまでの胎位や胎勢を変えることができず、膝屈曲が不十分のまま骨盤内に固定されて単殿位が成立するものと推測される。

一方、正常な丸い子宮であれば、胎児はその形に合わせて体全体を丸くして、重い頭は重力に従って下方に移動し、頭位をとってゆくようになると推測される。

図7は、正期産児と早産児の頭位の割合の図である。早産児では頭位に変わるのが遅いことがわかるが、その理由については筆者には説明しがたい。分娩に携わっておられる皆様で、ぜひ、深く掘り下げていっていただきたい。

図7 正期産児と早産児の頭位率の比較
図7 正期産児と早産児の頭位率の比較

 

3. 股関節脱臼の発生機序

骨盤位の場合は(図8) 膝関節が過伸展することは少ないが、頭位の場合は図9のように膝関節が過伸展しやすく、股関節脱臼率が高いのはこのためと考えられる。

図8 単殿位
図8 単殿位
図9 膝伸展の頭位
図9 膝伸展の頭位

 

図2のような単殿位の胎勢では反屈位を示し、頸椎は強く前彎、胸椎や腰椎は自然な後彎が消失し、不自然な姿勢をとることとなる。

図2 複殿位、単殿位
図2

 

通常の頭位では体全体が丸くなり膝も屈曲しているため、膝屈筋の過度な緊張は生じない(図10)。しかし、単殿位もしくは頭位で膝反張の場合では、膝伸展かつ股関節屈曲が持続することとなる(図11)。膝伸展によって膝屈筋は無理に伸ばされた状態となり、大腿骨頭と臼蓋の間に位置異常が生じ、骨頭は臼蓋から脱臼しやすくなるものと考えられる。

図10 良好な胎勢の頭位
図10 良好な胎勢の頭位
図11 股関節脱臼の発生機序
図11 股関節脱臼の発生機序

 

Ⅳ.まとめ

先天性股関節脱臼の発現因子として最も重要なものは胎児の膝伸展である。膝を曲げることができないと胎児の姿勢は全体として反屈位となる。もしこのような子宮内での不良姿勢を正し、膝伸展から屈曲に導く技術が確立するならば、それは医学史に残る大きな出来事となるに違いない。

 

参考文献