妊娠中の安全確保― 明日からの外来で気をつけてほしいこと①

【はじめに】

妊婦やその家族からは“うまくいって当たり前” と思われているお産だが、その反面、多くの妊婦は様々な「不安」を抱えている。我々周産期医療従事者は、日常健診で超音波やME機器を駆使してその「不安」に対処し、「安全」にお産ができるように配慮している。胎児が元気かどうかという「不安」、お腹が大きくなり腰まで痛くなった時の「不安」など、妊婦が感じる「不安」は様々である。使用する医療機器でも、「安全」に使用するために考えるべきことがある。そんな「不安」を「安心」に変え、「安全」な周産期医療を提供するためにどのように対応すればいいのか、①胎児の安全、②母体の安全、③機器の安全に分け、われわれができることを考えてみたい。

【① 胎児の安全】

妊婦はお腹の中の胎児が元気でいるかどうか気にしている。妊婦健診では、「赤ちゃん元気ですか?」の質問に対して、超音波で胎児心臓の動きをみたり、胎児心拍モニタリングで胎児well-beingを評価したりして、妊婦を安心させることができる。病院に来れば、このようなME機器を駆使することで胎児well-beingを知ることができるが、胎児が元気かどうか不安になるのは、実際には病院ではなく、自宅や職場が主であると言ってよい。

胎動は、妊婦自身が胎児が生きていることを感じる唯一のツールである。胎動カウントは古典的な方法であるが、高額なME機器とは異なり、妊婦自身が胎児well-beingを自宅で手軽に評価することができる。妊婦は、胎動を感じることでお腹の中で児が生きていることを実感し、母児の絆を感じることができる。妊娠初期には、「まだ児が動かないので不安だ」と感じる妊婦も多い。が、妊娠時期が進み、胎動を感じるようになればひと安心する。その後に、胎動が少なくなれば、異常かもしれないと感じる。このように胎動は胎児の異常を察知できる有効な手段である。

自宅でできる胎児健康診断法として、我々は簡便にできる10回胎動カウント法を提唱してきた。妊娠週数別の胎動基準値を作成し、様々な疾患における胎動減少をこれまでに多数報告した1)。

胎動カウントに関する研究

胎動減少に関する研究は多数ある。なかでも、「胎動減少が、胎児死亡に先行する」という事象は、昔から報告されている。Pearsonは、単胎妊婦120名の研究で、胎動減少のない108名と胎動減少や消失のある12名を比較したところ、前者では児死亡が1 名であったのに対し、後者では4名の死亡と5名の緊急帝王切開があったと報告している2)。

ノルウェーのFroenのグループは、母数の大きな研究を報告した3)。Froenらは、ノルウェーの東部地区で「胎動計測キャンペーン」を実施し、そのキャンペーン前後の児死亡率を詳細に検討した。このキャンペーンでは“胎動数”自体の異常具体値を規定せず、「いつもより胎動が減った気がしたら受診してよい」とした。結果は、胎動減少者からの死産率が4.2%から2.4%に減少し(OR 0.67, 95%CI 0.48 ~ 0.93)、同時に胎動減少だけに限定しない全体の死産率も3(千対) から2に減少していた。胎動カウント(胎動減少) の死産減少効果が示された。

産科婦人科ガイドライン産科編2014 では、「“胎動回数減少” を主訴に受診した妊婦に対しては?」のCQにおいて、「胎動減少・消失が胎児死亡に先行する症例は存在するが、胎動カウントが周産期死亡を減少させるとの明確なエビデンスはない」とことわった上で、以下のAnswerを示し、いくつかの実例を挙げている。

Answer 1. 胎児well-beingを評価(NST等で)する。(推奨レベルB)

Answer 2. 胎動回数と胎児健康の関係について問われたら「関連ありとする研究報告がある」と答
える。(推奨レベルC)