妊娠中の安全確保― 明日からの外来で気をつけてほしいこと③

我々の経験した胎動減少・消失症例

我々はこれまでに、数例の胎児病や胎児機能不全状態を経験し、報告した。ここでは、我々の経験した胎動減少・消失症例のうち特徴的な症例を提示する。

① 先天性ミオパチーでの胎動減少 5,6)

神経筋疾患では胎動はかなり少ないと考えられていたが、実際にどの位少ないのかの報告はこれまでになかった。我々は、胎動数が胎動自覚早期より基準範囲を下回ることを初めて報告した。

症例は38才の1回経産婦である。妊娠28週より、我々の提唱している自覚胎動カウントを開始した。図3は、実際に記入された胎動カウント表である。カウント当初より基準値(25分:図の基準線)を超えていたため、外来で厳重管理していた。妊娠34週頃より羊水が次第に増え、妊娠37週には羊水過多(AFI>30cm)となった。胎児超音波検査では、胎児膝関節の伸展拘縮、股関節拘縮などが認められた。呼吸様運動も観察されないため、この時点で神経筋疾患の存在が強く疑われた。妊娠38週に破水し、2444gの女児を経膣分娩した。児は出生後に精査が行われた結果、筋生検で特徴的なネマリン小体(Nemalinebody)を多数認め、先天性ミオパチー(先天性ネマリンミオパチー)と最終診断された。

図3 実際に記入された胎動カウント表
図3 実際に記入された胎動カウント表

神経筋疾患では、胎動自覚はほとんどないものと誤認されている場合がある。本症例でも、1時間以内には10回動いていることから、胎動が全くなくなるわけではない。神経筋疾患の児であっても、「胎動はきちんとあった」と申告する妊婦もいるであろうと推察された。したがって、羊水過多の症例を診る場合、胎動自覚があるからといって、神経筋疾患を鑑別疾患から除外すべきではない。