妊娠中の安全確保― 明日からの外来で気をつけてほしいこと④
② 臍帯過捻転での胎動減少 7)
症例は38才の初産婦である。胎動初覚時期より常に胎動に注意していた。妊娠26週1 日、丸1日胎動を感じなかったために翌日近医を受診した。超音波検査で発育異常なく、パルスドプラでも異常を指摘されなかった。まだ胎動初覚後早期なので、胎動を感じにくい、ただそれだけのことではないだろうか、とも考えた。が、念のために施行された胎児心拍モニタリングで、variabilityはminimalであったため、精査目的で当科へ紹介された。当科での超音波検査で、胎児発育は基準範囲であったが、臍帯高度過捻転を認めた。超音波検査中に胎児心拍の低下を認めたため、胎児心拍モニタリングを行ったところsevere variable decelerationが頻発していた。NRFSと判断し、妊娠26週ではあったが、緊急帝王切開を行った。児は800g、男児、Apgar score:3-7-7であり、NICU入院後に挿管管理となったが、その後NICUから退院できた。
子宮内胎児死亡の原因がはっきりせず、臍帯過捻転の存在を胎児死亡の原因とretrogradeに想定しうる例が多数ある。本症例はこのまま放置されていればIUFDになった可能性が高いと推定され、「胎動カウントが児救命につながった最小(浅)週数例」である。
③ 急激に進行したTTTS(双胎間輸血症候群)でみられた胎動減少 8)
双胎の胎動は、はたから見ると一見どちらの児が動いているのか分からないように思えるが、妊婦健診で聞くと、「分かりますよ」と答える妊婦が多い。双胎では胎動カウント表の記載は求めていないが、胎動には注意するよう促している。症例は妊娠31 週の一絨毛膜二羊膜(MD)双胎である。直前の外来で羊水差が出てきたため、入院が計画されていた。夜間、片方の児の胎動が少なくなっているのに気づいて来院した。CTGでは、胎動がないと感じた供血児は胎児貧血を示唆するsinusoidal patternを呈し、受血児はほぼvariabilityがない状態であった。緊急帝王切開を行い、NICUに収容した。体重は、受血児2060g、供血児1578gであり、急激に進行したTTTSのために、胎児機能不全に陥ったものと推察された。
胎動減少は胎児の状態悪化で起こるため、単胎であろうと多胎であろうと気がつくことができる。多胎の場合は個々のカウントで時間がかかることが推測されるため、「いつもと違う」「ちょっと減った気がする」という自覚でも、胎児well-beingの評価がされることが望ましい。特にMD双胎の場合は、突然のTTTSが懸念されるため、胎動により注意を促すべきと考えられる。
④ 胎動消失を「お産が近いため」と、自己判断した症例 9)
我々が胎動カウントを推奨している中で、悔やまれる症例があった。症例は26歳の初妊婦である。妊娠経過中、異常は指摘されず、27週から胎動カウントを行っていた。38週を過ぎ、胎動カウントを試みたが、胎動を全く感じなかった。しかし、「お産が近くなると児は動かなくなる」と一般的に言われているので、「そろそろお産なのだ」と思い、胎動低下は生理的現象だと判断し、放置していた。その4日後妊婦健診を受診し、IUFDが判明した。
一般的にお産が近づくと胎動が少なくなることは知られている。最近の研究では、active phaseにきちんと計測させればカウント時間は10分であり、妊娠末期にはこの時間が約2分ほど延長するとされている10)。我々の作成した基準値でも、妊娠37週以降は10回カウントに要する時間が長くなっている。しかし、胎動が全くなくなるわけではなく、本症例のように「お産が近づくと児が動かなくなる」という誤解がなければ、助けられるケースもあるかもしれない。これ以降、我々の胎動チェック表には、「胎動は少なくなることはあっても、全くなくなることはありません」との1文を付け加えるようにした(図1)。
この他、胎児の急性腹症で胎動が減少した症例など、これまでに多くの胎児疾病と胎動の関係を報告した11)。胎動は胎児の状況を映す鏡であり、自覚胎動カウントは、妊婦が「安全」に妊娠生活を送る上での、重要なツールであると考えられる。